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「関係性」をキーワードにした 協同組合運動(にじ 2012年 冬号 No.640 オピニオン)

「関係性」をキーワードにした 協同組合運動

松岡 公明
にじ 2012年 冬号 No.640

 世界的な経済秩序、成長モデル、福祉国家、安全・安心など、いままでの「神話」が次々と崩壊するなかで経済・社会のあり方をめぐってパラダイム転換が叫ばれている。パラダイム転換といえば「公共」と民主主義の関係も然りである。「新たな公共」をめぐっては「官から民へ」「小さな政府」「行政改革」などのフレーズで推進されてきた新自由主義的改革による民営化の「お仕着せ」には注意しなければならない。

 しかし、政府の失敗、市場の失敗が顕在化、政治・経済・社会の3つのサブシステムが機能不全化するなかで今日的な課題として、参加・民主主義に基づく「力強い公共」への質的改善に向けて、公・共・私セクターの協働システム、多元的な主体による「協治」のガバナンスのあり方が問われている。協同組合陣営としても責任ある主体として、これまでの枠組み、思考方法を越えて議論を前進させなければならない。「伝統的な公共」と「新たな公共」の議論を乗り越えて、新たな協同のウェーブを、新たな協働のステージをどのように創造していくのか、また、地域コミュニティの自治能力をいかに向上させていくのか、多元的な公共の形成に積極的に参画していかなければならない。

 価値の源泉は「関係づくり」である。有用性(使用価値)は関係性のなかで発生し、どのようにつながっているのかという関係性のあり方、展開の仕方によって大きく変化する。つまり、有用性はそれを包む関係性の内容によって変わる。協同組合の有用性も組合員と役職員の関係性、地域社会との関係性や相互作用によって大きく変わる。質の高い「関係」が質の高い「思考」を生み出す、質の高い「思考」が質の高い「行動」を生み、質の高い「行動」が質の高い「結果」につながる(「成功の循環」マサチューセッツ工科大学:ダニエル・キム教授)。組織の一体感と目的や理念の共通理解があれば、組織の行動の質が高まるのである。

 関係づくりの出発点はコミュニケーションである。組合員と役職員、組合員同士、そして地域住民、地域の多様な組織との質の高いコミュニケーションが質の高い関係を生み出す。その意味で改めて協同組合としての情報発信力、コミュニケーション能力が問われているといえよう。