刊行物

今ここを生きる (にじ 2020 春号 No.671 オピニオン)

今ここを生きる

藤井 晶啓 Fujii Akihiro
日本協同組合連携機構 常務理事 企画総務部長事務取扱
協同組合研究誌 にじ 2020 春号 No 671

理念はメシの種、といえども

 「理念でメシは食えない」「理念は机上の空論、現実とは別」と言い切る人がいる。
 そうとは思わない。メシが食えないのは理念が形骸化しているからだ。何を変えて何を変えないかの道標となる理念こそライバルとの差別化の源泉であり、理念のないがしろは自分自らがメシの種を捨てること、と語ってきた。
 さりながら、協同組合の経営を担う者にとって、上向かない景気には頭を抱える。
 JAにおいてこれまでの経営を支えてきた第1世代の世代交代は終盤に。だからこそ、第2・第3世代との関係再構築のための対話運動に取り組んでいる。
 その一方で、どの金融機関でも資金利ザヤは減少しており、支店の閉鎖、人員削減、さらに合併・再編の議論も。JAグループでも経済事業の収支改善、業務効率化、支店統廃合等を柱とする「持続可能なJA経営基盤の確立・強化」を検討中である。

ハンマーを持つ人はすべてが釘に見える

 私たちは「これしか道はない」と思いがちだ。欲求5段階説のマズローは「ハンマーを持つ人にはすべてが釘に見える」と言った。ハンマーで釘を打って成功した体験を持つ者は、物事すべてが釘に見えすべてハンマーで叩けば問題解決すると思いがちになる。ドライバーで回すべきネジかもしれないのに。
 対話と効率化を二律相反で捉えてしまう裏に、過去の経営危機を支所統廃合と人員削減で乗り切った故のバイアス(偏り)がないだろうか。

バランス論に逃げない道

 さりながら「対話運動と効率化のバランスは、全国600 有余のJA が個々に考えればよい事」という意見は無責任だ。
 では、どうするのか。確かに「絶対に正しい、絶対に良い答え」は存在しない。だからといって「『良い』道など一切ない、すべて相対的なバランスだ」とは言えない。なぜならば私たちは日々、何らかの「良い」「良くない」という確信を抱いているからだ。
 時間を経れば変わるかもしれないが、少なくともその時点では「良いもの」「やってはいけないもの」の判断基準を皆、持っているはずだ。その「良い」「良くない」となぜ思ったのか、その確信を明確にできないだろうか。その確信こそが「今ここを生きる」ことであり、明日のメシを生む理念である。
 理念と現実のジレンマに悩むのは経営者として当然であり、全国すべてのJAが悩んでいる。だからこそ、一緒に悩み、情報が交流できる場をつくることは協同組合らしいやり方ではないか。
 二宮金次郎曰く「遠きをはかる者は富み、近きをはかる者は貧す」。遠きをはかれない経営に持続可能性がないのは自明の理である。