刊行物

二つの中国(にじ 2010年 冬号 No.632 オピニオン)

二つの中国

松岡 公明
にじ 2010年 冬号 No.632

 11月に日中農協交流視察団として中国の江蘇省を訪ねた。先ず、都市化・工業化が著しい「蘇州市モデル」を視察した。農地転用がすさまじい勢いですすんでいる。農地・農家、そしてムラが消滅し、農民は新興住宅団地に集団移住させられるのである。私有財産制のない中国の成せる業かもしれない。財政が潤沢な地域だからできることかもしれないが、「失地農民」は土地提供の代償としてマンションを3戸もらえる仕組みだという。日本の高度成長を濃縮した形で近代化路線を突き進む昇竜の勢いの中国。いわゆる「蘇州市モデル」は、農工のバランスを著しく欠いていた。今のままの勢いに任せていて、13億人の胃袋をどう賄っていくのだろう。中国の「三農問題」(農業・農村・農民)と食糧安保の行方が気にかかる。

 次に、これと対照的な句容市戴庄村を視察した。社区(コミュニティ型)合作社が新たな農村建設にチャレンジしており、共感を覚えた。農家860戸のうち販売農家のほとんどが組織化され、合作社の先導のもと、村をあげて有機農業、農畜結合による複合経営を展開し、さらにグリーンツーリズム、農家レストラン、生物多様性の保護、農業生態系の修復の取り組みを始めている。2003年当時、農家の平均所得が3,000元以下にとどまっていた貧しい村が2009年には約3倍の9,000元まで豊かになった。

 この合作社は、民主的運営に忠実で、営農技術指導や学習会、教育広報活動を充実させ「教育組織」としても機能している。情報の公開性と決め事の透明性を確保しており、加入農家の事業利用率もきわめて高い。中国の合作社のほとんどは農産物の仲買人や龍頭企業が主導して設立した専門合作社だが、戴庄村の合作社は、農民の、農民による、農民のための合作社であり、村全体の経済発展、活性化に大きく寄与している。中国の協同組合運動のモデルといえよう。

 ところでTPP(環太平洋経済連携協定)が急浮上してきた。視察先の「二つの中国」。地域の環境に差異があるとはいえ、そのあり様がTPPのはらむ危険性と二重写しに見えた。

 工業、外需、貿易、国際連携、どれも重要であるが、何よりも「国のかたち」を農林漁業や内需、社会の調和と安定、地域経済の循環との関係において考えることが重要である。後悔、先に立たず。