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腹式呼吸と民主主義(にじ 2013年 秋号 No.643 オピニオン)

腹式呼吸と民主主義

松岡 公明
にじ 2013年 秋号 No.643

 TPPは異例の秘密交渉となっている。福島原発の汚染水漏出問題、消費税増税問題も国による情報開示、説明責任が不十分で国民の不信・不安が増幅している。「TPPありき」「再稼動ありき」「増税ありき」の偏った報道が目立つ。メディアの劣化が指摘されている。情報開示は民主主義の前提である。

 最近、ある俳優が火付け役となり、ぽっこりお腹をへこます腹式呼吸によるダイエットがブームになっている。息を吐ききるには、お腹周りの筋肉をしっかり使わなければならない。普通の呼吸では腹筋は収縮しない。インナーマッスル(深層筋)を鍛えることで腹部内部がゴムバンドで巻いたように締め付けられ、内臓についた体脂肪を燃焼する効果があるという。腹筋を意識しないとできない呼吸方法である。自律神経を回復する効果もあるそうだ。腹式呼吸が上手になると姿勢もよくなり、スタイルが改善されるという。

 協同組合の参加・民主主義の原則に、この腹式呼吸の方法論があてはまるのではないか。息を吐ききるように、組合側から組織・経営等の情報を徹底して吐き出す。息を吐き出し終われば自然と深く息を吸うことになる。組合員の方は、吐き出された情報を能動的に深く吸うことによって自律神経を回復する。そして、深く吸い込んだ後は、今度は深く息を吐ききるように意見・要望を組合に対して吐き出していく。組合はそれを深く吸い込み企画・提案として吐き出していく。こうした腹式呼吸の繰り返しが参加型民主主義のレベルを引き上げ、協同組合としての「腹筋」を鍛えて引き締まった運動スタイルを持続していくことになる。双方向コミュニケーションの腹式呼吸により、「見える化」「共有化」「学習」がすすむのである。

 1986年、ゴルバチョフはロシア語で「建て直し」「再建」を意味するペレストロイカを提唱し、本格的なソビエト体制の改革に着手する。4月に発生したチェルノブイリ原発事故では、共産党独裁のもと情報公開が制限されていたため多くの住民が被曝し多数の犠牲者を出してしまった。事故を知ったヨーロッパ諸国からは苦情が殺到した。その反省から、グラスノスチという情報開示政策を推進した。グラスノスチの教訓は、情報の力は隠すことによってではなく、出すことによってしか得られないということである。情報開示に基づく熟議を通じた民主主義の本来の姿が問われている。