教育・研究データベース

「私の」新協同組合ビジョン(にじ 2014年 夏号 No.646 オピニオン)

「私の」新協同組合ビジョン

中川 雄一郎
にじ 2014年 夏号 No.646

 明治大学の最も新しい校舎、グローバル・フロント(大学院専用棟)のホールで「新協同組合ビジョン研究会報告」(当研究所セミナー)が先日5月16日に開催された。この研究会報告は3つの講演と2つの実践報告、それにパネルディスカッションを通じて「なぜ、いま、協同組合の新ビジョンが求められなければならないのか」、その背景と論点を明らかにし、したがって現代協同組合の事業と運動の発展を理念的側面―すなわち、「協同組合アイデンティティ」の側面―と経済‐社会的な側面の双方から追究する、意欲的で示唆に富んだものであった。そして何よりも、この研究会報告には各講演者に暗々裏に了とされていた事項があった。「レイドロー報告を乗り越えて」がそれである。

 3つの講演は私の「協同組合は『未来の歴史』を書くことができるか」と、田中夏子氏(都留文科大学非常勤講師)の「協同組合は『参加』の問題とどう向き合うのか」、それに大高研道氏(聖学院大学教授)の「現代協同組合が求める教育活動の姿」である。また実践報告は、亀田高英氏(コープみやざき理事長)の「組合員さんの日々のくらしに役立ち続ける生協をめざして」と、岸本幸男氏(JAグリーン近江理事長)「組合員・地域とJAの関係構築を目指して」の2本立てである。講演と実践報告のいずれも大いに関心をそそるテーマである。したがって、これらの講演と実践報告のすべてに言及したいのであるが、紙幅の都合で取り敢えず私の講演の中身に極簡単に触れておく。

 私にとっての「新ビジョン」は実際には、新ビジョンそれ自体を謳うのではなく、「レイドロー報告の本旨」を追究することで「協同組合のエートス(主体的選択に基づく行為性向)」の何たるかを明らかにすることであった。認識論的に言えば、(1)(人びとや社会の) 「協同組合に対する期待」、(2)「協同組合の果たすべき役割」、そして(3)「協同組合のなし得る実践」、これらを明確にする意義と意味を示唆することであった。換言すれば、それは「協同の倫理」と「参加の倫理」に導かれた協同組合人が、自らの「個人的行為の社会的文脈」と「協同組合の事業と運動の普遍性」との必然的な関係を認識し、「未来を見据える」鳥瞰図を描く環境を整えることである。「レイドロー報告を乗り越えて」とは、そのように幅広く、かつ奥深い「協同組合の世界史」が協同組合人を含め多くの人びとによって創造されていくことを想像する眼力に外ならない。協同組合人の闘いは常に未来を見据えていなければならないのである。