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地域で奮闘する小さな鉄道(にじ 2016年 秋号 No.655 オピニオン)

地域で奮闘する小さな鉄道

北川 太一
にじ 2016年 秋号 No.655

 列車がJR北陸本線を跨ぐと、まもなく福井駅に着く。そこでは、全国でも珍しく、開業予定の北陸新幹線の駅が使われている。こんな「えちぜん鉄道」(通称、えち鉄)は、総営業距離50キロほどの小さなローカル鉄道である。以前は別の鉄道会社が経営していたが、乗客数の減少や2000年代に入って続けて起こった列車衝突事故などで経営が行き詰まり、運行停止・廃業を余儀なくされた。

 しかし、鉄道存続を求める地元の強い要望もあり、県、関係市町村、企業や県民出資による第三セクターとして2002年9月に復活し、「10年スキーム」の考え方で、あわてず、焦らず、目先の利益追求や経費削減を優先させることなく、地道な努力が続けられてきた。私も年会費を払ってサポーターになり、乗車ごとに押されるスタンプをせっせと集めている。JAの准組合員みたいなものである。

 えち鉄では、鉄道業と小売業は同じ、駅舎も車内も大切なお客さんと接するお店という考え方が貫かれている。その一つが、「アテンダント」と呼ばれる車内乗務員の存在である。車内で、無人駅からの乗降客に対する切符の販売・回収、高齢者や身障者の乗降介助、駅到着時や観光案内等のアナウンス、各種グッズの販売など、忙しく車内を歩き回る。しゃがんで乗客目線に立つことも多く、そこから日常的な会話が生まれる(私も、今日はどこへ出張ですか、と声をかけられることがある)。ちなみに、えち鉄の駅には無人駅も含めて切符の自動販売機は一切置かれていない。有人駅では、駅舎の窓口で切符を購入する。また近年ではフリー切符を使って、地元JAの施設見学や産地での収穫作業体験ができる親子ツアーなども企画され、協同組合とのコラボも進みつつある。

 えち鉄の経営は、決して楽ではないが、北陸新幹線効果による観光利用客はもちろん、定期利用など「日常型」乗客数も伸び続けているという。あえて人を配置し、お客さんとのつながりを作り、地域に優しく、次世代に存続できる鉄道をめざす。協同組合の運営にとって、学ぶところが多いのではなかろうか。